当塾の目指す一つの目標

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世の中に大人向けの英会話教室はいくらもありますが、英文法に基づき英語を読み、かつ書くということを本格的に勉強できる場所はそれほどないと思います。一方で、「✕✕さえ覚えれば英語は簡単」と称する書籍などはいくらでもあります。ただその効果の程は、内容を知らない私には論評する権利はありませんが、推して知るべしだろうと思っております。そういう書籍に人気があるということは、言い訳程度に英語に接することでお茶を濁している人々が多いのだろうということを予想させますが、当塾としてはそういう負け戦のお手伝いをするつもりはありません。幸いなことに当塾に集う受講生の皆様は、それぞれ各分野において、私など足元にも及ばない見識をお持ちの方ばかりです。ただ、英語というインターフェイスがないため、せっかくの見識を伸ばせない、活かせない、伝えられない、ことに悩んでおられます。そこを突破する手がかりとして、当塾の門を叩かれたのです。私はそういう受講生の皆様に、最低二年、できれば三年ください、と申し上げています。そういう方にとって、英語の勉強は「一生続けるもの」であってはいけません。それぞれの方には、もっと深めるべき専門があり、その分野で活躍することに自分の時間とエネルギーを使うのが正しいからです。英語はあくまでもその道具に過ぎません。ですからその学習に時間を取られて専門分野が万が一にも疎かになるとすれば、それはただの本末転倒です。ただし、翻って英語は一民族の第一言語として使われている完成度の高い言語です。その中には多くの研究分野があり、それぞれに専門の研究者が生涯をかけるほどの広さも深さもあるものではあります。決して「3つ覚えるだけでなんとかなる」ものではありません。当塾が目指すのは、英語と、英語を専門としないが、英語で活躍の場を広げたいと願う人々をつなぐ架け橋となることです。そのため当塾は、深く研究していけば様々な襞と奥行のある英語という言語に関して、かなり明確な割り切りをしています。その割り切りによって、記憶するべき事柄を最小限にしつつ、英語という言語で文字を使った正確で実用性の高い情報のやり取りをできるようにすることが当塾の目標です。そうすることによって、最小限の努力で最大限の効果を生むことを目指しております。

そしてこのような英語学習には副次効果があります。それは我々の母国語であり、存在の基盤である日本語を見つめ直し、その論理を正しく再構築しつつ、英語という別の文法論理と向かい合い、日本語も英語も相対化することで、その両者を融合しある意味超越した新しい自我を自らに与えることです。我々は日本語という、極めて高度に体系化された使いやすい言語を第一言語としています。日本語がそういう性質を持つことは、日本の物理学者の中に、英語が不得手であるにも関わらずノーベル賞を獲得した科学者がいることでもわかります。ですが一方で、日本語は、おそらくはその歴史的成り立ちからしてその構造が極めて重層的で複雑であり、その論理の流れを容易に他に明かしません。翻って英語は、これまたおそらくはその歴史的成り立ちのせいで、文法それ自体が極めて直裁で明瞭な論理の流れを重視します。この両方の言語をつなぐ英語学習を通じて、その両方の力を自分のものとすることができると考えるのは、あながち妄想とはいえないと思います。どのような言語であれ、我々は言語を使って考えます。したがって我々の思考内容はその言語のルールである文法の論理に従って形成されるのです。ただ、言語は普通無意識にコントロールされているため、我々が自分自身の思考の論理の流れを単独で客観的に追うのは極めて難しいと言わざるを得ません。ですが、英語、という外国語を我々自身がコントロールしようとすると、我々は自分の第一言語たる日本語だけで思考する場合とも、またそもそも第一言語が英語である人々が英語だけで思考する場合とも異なる至高体験を得ることができます。両者のいわば中間に立つことによって、自分自身を相対化し、その過程を通じてたとえ第一言語の日本語でであろうと、これまでとは異なる論理による思考、これまでとは異なる視点からの思考が可能になるのです。これが、多くの皆様の本来の活躍分野である語学以外の場面で、必ず何らかの役に立つと思います。

私自身、不本意かどうかもわかりかねるのですが、結果的に1/3世紀近く、あまり得意とはいえない英語と付き合い、英語を生業にしてきてしまいました。それ以外のことに関する世界に伍するだけの知見を、私はどの分野に関しても持ちません。それこそいま英語圏に行ったら、アクセントのおかしいただのデブのおじさんに過ぎないのです。ただ、私自身は自分なりに今の「英語理解」の状態に達するのにそれこそ1/3世紀を要したわけですが、それがどのような価値を持つものであれ、その程度のものなら二年、ないしは三年真剣に勉強していただければ道具として立派に通用する程度のものにはなると思います。なので願わくは、より多くの才能あふれる人々、そして秘めたる才能をこれから伸ばそうとする人々に、その才能を世界に解き放って、より強く明るく光り輝くために、人生のほんの一時期だけ、英語に向かい合っていただきたいと思います。年齢も性別も現在のお立場も無関係です。そして当塾がそのような人々の幾ばくかの助けになることを、塾長として心より願っております。